2014年6月8日日曜日

прокат の新しい用法?:「кинопрокат と同じ」「映画配給」

(この記事は2014年6月10日に部分的に書き直されました。記事の古い内容は下の方に残してあります。伝えられる情報そのものは基本的に全く変わっていませんが、趣旨に変化があります。)

『研究社露和辞典』(研究社、1988年)に載っていない単語の用法が、『Толковый Словарь Русского Языка』(『ロシア語詳解辞典』)のインターネット版に載っていることがあります。この記事のテーマは、прокат というロシア語の単語の、そのような用法についてです。具体的には、прокатに「кинопрокат と同じ」すなわち「映画配給」という意味がある、ということについてです。

このような用法が『研究社露和辞典』に載っていないということについては、これは辞書の不備というよりは、単語の新しい用法が、近年になって『ロシア語詳解辞典』の新しい版に追加されたのではないか、と私は推測しています。



それでは、具体的に、それぞれの辞書で、прокат という単語についてどのように記されているのか。

まず、『研究社露和辞典』で прокат の項目を探すと、この単語には2つの項目(見出し)があることが分かります。つまり、辞書では同じ形の別々の単語として扱われています。1つめの прокат の項目には「圧延」などの訳語がありますが、ここで問題となるのは、2つめの прокат の項目です。そこでは、「賃貸、賃借り、レンタル、リース」という訳語と、このような意味での単語の使用例が示されているだけです(1794頁)。

ところが、ロシア語の辞書(露露辞典)である『Толковый Словарь Русского Языка』(以下、『ロシア語詳解辞典』)では、прокат の項目は次のようになっています。

ПРОКАТ
ПРОКАТ, -а, м. 1. То же, что прокатка. Прокат труб. 2. Металлические изделия определённого профиля, изготовленные прокаткой. Выпуск проката. || прил. прокатный, -ая, -ое (ко 2 значение). ПРОКАТ2, -а, м. 1. Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование. Взять в п. Плата за п. Пункт проката. 2. То же, что кинопрокат. Выпустить фильм в п. || прил. прокатный, -ая, -ое. ПРОКАТ3 смотрите прокатать2.

『研究社露和辞典』の場合と同様に、прокат という同じ形の単語に対して複数の項目があります。ここで問題となるのは、やはり2つめの прокат です。この2つめの прокат の項目だけを抜き出します。

ПРОКАТ2, -а, м. 1. Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование. Взять в п. Плата за п. Пункт проката. 2. То же, что кинопрокат. Выпустить фильм в п. || прил. прокатный, -ая, -ое.

これの1番目の定義「Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование.」が『研究社露和辞典』でいう「賃貸、賃借り、レンタル、リース」に相当します。

そして、ここで肝心なのが、その次の「То же, что кинопрокат.」(кинопрокат と同じ)という部分です。すなわち、прокат という単語には кинопрокат という単語と同じ意味がある、ということです。

次に、この кинопрокат の意味を調べると、『研究社露和辞典』では「映画配給;映画フィルム貸出し」(811頁)とあり、『ロシア語詳解辞典』では以下のようにあります。

КИНОПРОКАТ
КИНОПРОКАТ, -а, м. Демонстрирование кинофильмов на экранах кинотеатров, клубов. || прил. кинопрокатный, -ая, -ое.

これによれば、кинопрокат は「Демонстрирование кинофильмов на экранах кинотеатров, клубов.」、すなわち、映画館などのスクリーン上で「映画を公開・上映」する、ということです。

映画の「配給」と「公開・上映」との間には意味の差異がありますが、どちらの辞書を信じればよいのでしょうか? これについては、私にもよく分からないのですが、グーグル翻訳露英辞書によると、кинопрокат には「film distribution」(映画配給)という訳があるため、この点に関しては『研究社露和辞典』を信じてよいのではないかと思います。

ところで、私がこの記事を書くきっかけになったのは、2014年6月6日のイズベスチヤの記事「Владимир Мединский лично проследит за японским Чебурашкой」でした。そこでは、прокат が「(映画の)配給」という意味で使われていると思います。




(2014年6月9日追記)最初、当記事の題名を”『研究社露和辞典』の不備:прокат 「映画配給」が無い”としていましたが、次の理由により、現在の題名に変更しました。
  1. この記事で論じていることは、そもそも、辞書の「不備」の問題ではなく、単語の新しい用法の問題である可能性がある、と分かった。
  2. したがって、従来の題名は、辞書とその制作者の名誉を不当に傷つけるものであり、間違った認識を広めることになる。

このように考え直したのは、以下の理由によります。
  1. 当記事で引用されている『Толковый Словарь Русского Языка』(『ロシア語詳解辞典』)のインターネット版では、прокат の項目に「То же, что кинопрокат.」(кинопрокат と同じ)という記述がある。
  2. しかし、同辞書の第27版(2010年発行)には、そのような記述が同項目に無いことが分かった。
  3. インターネット版『ロシア語詳解辞典』が、同辞書のどの版に基づいているのか、私には特定できていないが、問題の記述は、2010年よりも後に新しく追加されたものではないかと思われる。つまり、прокат に「кинопрокат と同じ」意味があるとするのは、かなり新しい用法であるかもしれない。

(以上、追記。以下は従来の記事の内容です)

この記事のテーマは、タイトルのとおり、『研究社露和辞典』(研究社、1988年)の不備についてです。具体的には、прокат というロシア語の単語に「(映画の)配給」という意味があることが、この辞書では分からないようになっている、ということです。

最初にポイントだけ箇条書きにしておきます。
  1. 『研究社露和辞典』では、прокат の訳語として「賃貸」「レンタル」などが載っているだけで、「кинопрокат と同じ」意味があることが示されていない。
  2. кинопрокат には「映画配給」という意味がある。
  3. 要するに、『研究社露和辞典』では、прокат に「(映画の)配給」という意味があることが分からないようになっている。

詳しくは以下に書きます。

まず、『研究社露和辞典』で прокат の項目を探すと、この単語には2つの項目(見出し)があることが分かります。つまり、辞書では同じ形の別々の単語として扱われています。1つめの прокат の項目には「圧延」などの訳語がありますが、ここで問題となるのは、2つめの прокат の項目です。そこでは、「賃貸、賃借り、レンタル、リース」という訳語と、このような意味での単語の使用例が示されているだけです(1794頁)。

ところが、ロシア語の辞書(露露辞典)である『Толковый Словарь Русского Языка』(以下、『ロシア語詳解辞典』)では、прокат の項目は次のようになっています。

ПРОКАТ
ПРОКАТ, -а, м. 1. То же, что прокатка. Прокат труб. 2. Металлические изделия определённого профиля, изготовленные прокаткой. Выпуск проката. || прил. прокатный, -ая, -ое (ко 2 значение). ПРОКАТ2, -а, м. 1. Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование. Взять в п. Плата за п. Пункт проката. 2. То же, что кинопрокат. Выпустить фильм в п. || прил. прокатный, -ая, -ое. ПРОКАТ3 смотрите прокатать2.

『研究社露和辞典』の場合と同様に、прокат という同じ形の単語に対して複数の項目があります。ここで問題となるのは、やはり2つめの прокат です。この2つめの прокат の項目だけを抜き出します。

ПРОКАТ2, -а, м. 1. Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование. Взять в п. Плата за п. Пункт проката. 2. То же, что кинопрокат. Выпустить фильм в п. || прил. прокатный, -ая, -ое.

これの1番目の定義「Сдача чего-нибудь во временное пользование за плату, а также само пользование.」が『研究社露和辞典』でいう「賃貸、賃借り、レンタル、リース」に相当します。

そして、ここで肝心なのが、その次の「То же, что кинопрокат.」(кинопрокат と同じ)という部分です。すなわち、「прокат という単語には кинопрокат という単語と同じ意味がある」ということであり、まさにこのことを示していないという点で『研究社露和辞典』に不備がある、ということです。

次に、この кинопрокат の意味を調べると、『研究社露和辞典』では「映画配給;映画フィルム貸出し」(811頁)とあり、『ロシア語詳解辞典』では以下のようにあります。

КИНОПРОКАТ
КИНОПРОКАТ, -а, м. Демонстрирование кинофильмов на экранах кинотеатров, клубов. || прил. кинопрокатный, -ая, -ое.

これによれば、кинопрокат は「Демонстрирование кинофильмов на экранах кинотеатров, клубов.」、すなわち、映画館などのスクリーン上で「映画を公開・上映」する、ということです。

映画の「配給」と「公開・上映」との間には意味の差異がありますが、どちらの辞書を信じればよいのでしょうか? これについては、私にもよく分からないのですが、グーグル翻訳露英辞書によると、кинопрокат には「film distribution」(映画配給)という訳があるため、この点に関しては『研究社露和辞典』を信じてよいのではないかと思います。

ところで、私がこの記事を書くきっかけになったのは、2014年6月6日のイズベスチヤの記事「Владимир Мединский лично проследит за японским Чебурашкой」でした。そこでは、прокат が「(映画の)配給」という意味で使われていると思います。



最後に、誤解を避けるために付け加えておきますが、この記事の意図は、とても有用な辞書である『研究社露和辞典』にケチをつけることではなく、その不足を補う、ということにあります。そして、そのことにより、私のような日本人のロシア語学習者にとって役立つことです。

また、記事を書き終えてから気がついたのですが、他の露和辞典では прокат の訳として「(映画の)配給」が載っているかもしれません。私自身の所持している露和辞典が『研究社露和辞典』だけであるため、このような形で記事を書きました。さらに、『研究社露和辞典』の初版が発行された当時(1988年)において、прокат に кинопрокат と同じ意味があったのかどうか、という疑問も生じます(もし無かったのなら、辞書の「不備」とは言えなくなる)。しかし、この記事の主旨から、そのようなことに踏み込む必要を感じません。現時点でロシア語の一学習者である私と同じような条件にあるかもしれない人にとって役立つことを期待して、このまま記事を残しておきます。

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